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与太話アンド Assorted Love Songs

監禁面接

最近読んだ フランスのミステリ。監禁面接という恐ろしい字面。

舞台はパリ。アパルトマンとかメトロとかフランスっぽい情景が描写される。 普通 探偵小説というかミステリはまず事件が起こり(そして捜索をしている間に複数の事件が起きたりして)その犯人を見つけ出して捕まえるというのが多くあるプロットだとおもう。しかしこの小説は事件からはじまらない。 むしろ最後に事件が起きる。警察もでてこないし 殺人事件もない。死者は最後に事故で無くなる2人だけ。  

主人公は数年前リストラにあった50代の中年、リストラされ 配送関係のアルバイトをしている。しかしある日このアルバイト先でトルコ人のスーパバイザとひと悶着を起こしてしまいクビになり、さらに賠償の裁判にもかけられる。そんなある意味八方ふさがりの中 あるグローバル企業の人事副部長職の公募を知る。 

実はそのグローバル企業は大規模なリストラを計画しており そのリストラ=タフな仕事=に耐えうる適任者を社内から選ぶ事を計画している。その選考方法は応募者を偽装テロリストによる監禁状態に置き、その極限状況での対応から適任者を選ぶというもの。 また同時に人事副部長の採用も計画しておりこちらは外部からの公募である。応募者は偽装の指南役をつとめる役割が与えられ やはりその対応方法により選抜される。主人公がこの副部長候補に応募することから話が進んでゆく。この一連の偽装は外部のコンサルタント会社が偽装テロリストなどの人材手配などすべてのアレンジを担うことになっている。 

主人公はすでに50代後半で自分を受け入れ 洞察力も深いようだ。それがちっとも嫌味ではない。 主人公は最終面接を経ていよいよ偽装監禁の日にむかう。そして偽装の監禁状態がこの主人公によって本当の監禁を引き起こしてしまう。その後結局逮捕され刑務所送りとなり裁判になるのだが 巧みな弁護と陪審員の同情をあつめ1年と少しで自由の身になる。そして今度はこのグローバル企業の裏金とか政界との癒着をねたにゆすりをかけ大金を手にすることになる。しかしずっとサポートしていた家族は離れていってしまうという話。 

犯人を追い詰めるという帰納的な話ではなく話は最初からどんどん発散発展してゆき最後の最後までどういう落ちになるかは分からない。読み終わっても終わりのカタルシスのようなものはない。またヒーローもでてこない。 

印象に残るのはアルバイト先で出会ったアル中の釘のようにやせたシャルルという車上生活者だ(路上駐車した車に住んでいる)。 このシャルルはことあるごとに箴言めいたことを口走るが 主人公は過ぎてゆく時間の中で彼が自分にとっては数少ない友人になっていることに気が付く。 最後はこの車とシャルルが主人公を救うことになるが同時に悲劇も起きる。 映画でもフランス映画ってハッピーエンドではないものがあると思うがこれもその例か。  

主人公 “やあシャルル、変わりないか?”

シャルル “幸福な日々は去った”