Last-mile Delivery

与太話アンド Assorted Love Songs

酉の市 サンクスギビング クリスマス もういくつねるとお正月

その昔 毎日のように新宿で酒を飲んでいた。 理由は 当時職場がそのあたりにあったこと、若かったこと、同僚(友人)が酒飲みばかりだったこと。 そして飲むというといつも西口だった。 西口なんて昔は浄水場しかなくて古い人に言わせればホントの新宿ではないのだろうが とにかくオレ達はだいたい西口で飲んでいた。 しかし何かイベントがあったとき、普段とは違う飲み方をするとき たまに東口に行った。  西口から東口に行くには新宿駅を通る多くの電車線路を越えて行かねばならない。 大げさだがこれは一つの旅だった。 地下からだったり、OO横丁を抜けて暗い地下道を越えていったり、ある時は大ガードを越えたり。 線路を越え東口側にでると そこは同じ新宿ではあるが まるで違う風景が広がっていた。

 

たまにしか行かないということもあって 東口には おれ達の行きつけの店はほとんどなかった。 ただし一軒だけ、靖国通り明治通りの交差点の先にある一軒の酒場に良く行った。 今思えばよく歩いてそんなところまで行ったものだ。 店は地下にあって薄暗い階段を降りてゆくとマスタはいつもきちんと白いワイシャツに黒いベスト、そして黒い蝶ネクタイで仕事をしていた。 愛想がなくて こちら空腹なので酒と一緒に食いものを頼むと ウチは食いものやじゃねえ と怒られた。 何度か行くうちに顔を覚えてもらい居心地の良い場所になった。 客層は演劇関係者が多かった。 サラリーマンのおれ達はどちらかといとそこでは異端者だったと思う。 頻繁ではないが 何かあるとそこに行ってなごんだのだ。

 

そのうちおれは転勤で日本を離れてしまい それを機に他のメンバもその店とは疎遠になったようだ。 ある時久しぶりに帰国したら 店の移転のはがきが来ていた。 久しぶりの日本でもあり昔の仲間を誘って行ったのだが 店の場所は いわゆる歌舞伎町の奥まったところ。 おれ達にはあまりなじみのない一角だった。 店に入ると妙に明るくて 店の雰囲気も客層もまるで変っていた。 マスタはおれ達の事をすぐに分かったが お互いに 昔とは違うということを即座に分かり合った。 それでもおれ達はボトルを入れてそこでしばし飲んだ。 しかし その店に行ったのは結局それが最後だった。

 

それでも今でも思い出すのは その移転前の昔の店で飲んだ時の事。 ある時何の酔狂か 随分と飲んでから これから花園神社行くぞーと 誰かが言い出し、皆で店を出て神社まで行った事があった。 外は風が強くて、少し寒かった。 歩道にはすでに枯葉も舞っていたような思い出がある。 そして神社に着くと深夜にも関わらず周りが妙に明るい。 人気のない境内に入ってみると酉の市の装飾がなされていた。 おれ達は若くて酉の市といってもあまりピンと来なかったのだが ああ 酉の市だ。 もうすぐ来るクリスマス などと喚いて境内を歩き回ったのだった。 もう今年もそんな時期が来たようだ。 11月 少し冷たい風に吹かれてあるいているとたまにあの時の事を思い出す事がある。 それはやがてやってくる 師走 クリスマス 年末 新年と続く時期への思いでもある。